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開府890年「千葉」の由来を探る(前編) 千葉の由来となった3つの伝説とは?

千葉を辿ると日本の歴史が見えてくる『千葉 地名の由来を歩く』千葉の由来編①

羽衣伝説による

 江戸時代に出された『妙見実録千集記』は、千葉氏の盛衰を述べ、その守護神である妙見宮の縁起とその祭事を記したものです。

 著者も年代も詳細は不明ですが、年代は安永九年(一七八〇)以降のものとされています。

千葉介常将(つねまさ)。此(こ)の代に至って、天人降りて夫婦に成り給へり。子細(しさい)は千葉の湯之花の城下に、池田の池とて清浄の池あり。此の池に蓮の花千葉に咲けり。貴賎上下群集して見物す。或夜人静まりし夜半過に、天人天下り、傍の松の枝に羽衣を懸置き、池の辺へ立寄りて、千葉の蓮花を詠覧(えいらん)し給ふ。夫より湯の花の、城へ影向(ようごう)成りて、大将常将と嫁娶(かしゅ)し給ひ、無程なく懐胎有りて、翌年の夏の頃、無恙(つつがなく)男子生し給ふ。

羽衣伝説の松の跡

 これは、要するに、千葉氏の祖とみなされる常将が、「天人」(天界に住む神々、天女)と交わって子どもを設けたという話で、どこにでもある羽衣伝説です。
    この話が都に伝わって「前代未聞」ということになり、「千葉の蓮花」を形どって「これ以降は千葉と名乗れ」と命じられたという話になっています。
    肝心な点は「此の池に蓮の花千葉に咲けり」と言っていることです。

 つまり、蓮の花が幾重にも重なって咲いていたということ。

 この点は「千葉」の由来を解く鍵になっていると言えるでしょう。

霊石天降伝説による

 『千葉伝考記』も著者、発行年代など詳しいことは不明ですが、千葉氏の事績を記したものです。
    江戸中期以降のものとされています。そこにはこう記されています。

 延長年中、忠頼、下総国にて誕生の時、日月光を並べ照臨(しょうりん)し、其の上祥瑞(しょうずい)多かりき。産屋(うぶや)より本殿に移し、臣僕(しんぼく)等集りて之を賀す。此の日空中より落ちたるか、庭上を観るに、月星の象形を備へし小石あり。「天の賜(たまわり)なり」とし、尊崇して秘蔵す。其の後此の石偶々醍醐天皇の叡覧に入り、勅(みことのり)に仍(よ)って千葉石の号を賜はる。故に千葉の称、茲(ここ)に始る。

 これは天から月星の形をした小石が落ちてきて、そのことから「千葉」と名乗ることになり、家紋も月星の紋になったことが記されています。ただし、この記述では、家紋が月星の紋になったことはわかるが、「千葉」そのものの意味は不明です。

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谷川 彰英

たにかわ あきひで

筑波大名誉教授

1945年長野県生まれ。ノンフィクション作家。東京教育大学(現・筑波大学)、同大学院博士課程修了。柳田国男研究で博士(教育学)の学位を取得。筑波大学教授、理事・副学長を歴任するも、退職と同時にノンフィクション作家に転身し、第二の人生を歩む。筑波大学名誉教授。日本地名研究所元所長。主な作品に、『京都 地名の由来を歩く』シリーズ(ベスト新書)(他に、江戸・東京、奈良、名古屋、信州編)、 『大阪「駅名」の謎』シリーズ(祥伝社黄金文庫)(他に、京都奈良、東京編)『戦国武将はなぜ その「地名」をつけたのか?』 (朝日新書)などがある。

 

 

 

 

 

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